出産の医療費控除はいくら戻る?一時金を引いても申告すべき理由

「出産した年は医療費控除で戻ってくる」——そう聞いて明細を集めたのに、計算したら出産育児一時金50万円を引いた時点でほぼゼロになった。これは非常によくあるパターンです。

ただし、そこで諦めるのは早いです。医療費控除には「引かなくていいお金」と「引く範囲の限度」というルールがあり、これを知っているかどうかで結果が変わります。この記事では国税庁の一次情報をもとに、対象・対象外の線引きと、還付を取りこぼさないためのポイントを整理します。

医療費控除の計算式

医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えたとき、その分だけ課税所得を減らせる制度です(国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき)。

控除額 =(1年間に支払った医療費 - 保険金などで補填される金額)- 10万円
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は「10万円」ではなく「総所得金額等の5%」
※控除額の上限は200万円

ここで絶対に押さえておきたいのが、これは「税金が戻る額」ではなく「課税所得から引ける額」だという点です。実際の還付額は、控除額に税率を掛けた分になります。

たとえば控除額が10万円で所得税率20%の人なら、所得税の還付は約2万円、翌年度の住民税(税率10%)が約1万円下がり、合計で約3万円の効果です。「医療費控除で10万円戻る」ではないので、期待値を正しく持っておきましょう。

また、生計を一にする家族の医療費は合算できます。妻の出産費用を夫が申告することも、夫婦・子ども・同居の親の医療費をまとめて1人が申告することも可能です。ここが後述する「取りこぼさないコツ」の核心になります。

出産で対象になるもの・ならないもの

国税庁は出産費用の取扱いを個別に示しています(国税庁 No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の範囲)。

費目可否補足
妊婦健診・検査費用○ 対象妊娠と診断されてからの定期健診・検査
分娩費・入院費○ 対象正常分娩・帝王切開いずれも
通院の電車・バス代○ 対象領収書が出ないため家計簿等での記録が必要
出産時のタクシー代○ 対象電車・バスなど通常の交通手段が困難な場合
入院中の食事代○ 対象入院費用の一部として支払われるもの
出前・外食した食事代× 対象外入院中でも別途頼んだものは不可
里帰り出産の帰省旅費× 対象外実家に帰るための交通費は対象にならない
寝巻き・洗面具など× 対象外身の回り品の購入費
自家用車のガソリン代・駐車場代× 対象外公共交通機関ではないため

間違えやすいのが里帰り出産の交通費です。「出産のための移動だから対象では?」と考えたくなりますが、国税庁は実家に帰省する交通費は対象にならないと明示しています。一方で、里帰り先から病院へ通う交通費は「通院のための交通費」なので対象です。帰省そのものはNG、通院はOKと切り分けて覚えてください。

引くお金・引かなくていいお金

ここが本記事で一番お金に直結する部分です。「保険金などで補填される金額」として差し引くべきものと、差し引かなくていいものがはっきり分かれています。

受け取ったお金医療費から引く?理由
出産育児一時金(50万円)引く出産費用を補填するもの
家族出産育児一時金引く同上
高額療養費引く医療費そのものの払い戻し
民間医療保険の入院・手術給付金引く医療費を補填するもの
出産手当金引かない医療費を補填する性格のものではない
育児休業給付金引かない休業中の所得補償であるため
児童手当引かない医療費の補填ではない
ここは間違えている人が本当に多いところです。国税庁は「出産手当金は医療費を補てんする性格のものではない」として、差し引き不要と明示しています。出産手当金は60万〜90万円になることもある大きな給付なので、これを誤って差し引くと控除額が消し飛びます。同じ理由で育児休業給付金も引きません。

補填金は「その医療費を限度に」引く

もう一つ、知られていない重要なルールがあります。補填される金額はその給付の対象となった医療費を限度として差し引きます。引き切れなかった分を、他の医療費から引く必要はありません

具体例で見ます。

誤った計算正しい計算
分娩・入院費45万円45万円
家族の歯科治療・薬代など15万円15万円
医療費合計60万円60万円
出産育児一時金-50万円-45万円(分娩費が限度)
差引後10万円15万円
-10万円0円5万円
控除額0円5万円

一時金50万円のうち、分娩費45万円を超える5万円分は余りとして手元に残ったお金であって、歯科治療費を補填したものではありません。だから歯科の15万円からは引かないのが正しい扱いです。

この違いで控除額が0円か5万円かに分かれます。「一時金を全額引いてゼロだった」と判断した人は、もう一度計算し直す価値があります。

モデルケースで計算してみる

年収500万円の夫、妻が出産(正常分娩)した年の例です。※あくまで概算です。

項目金額
妊婦健診の自己負担(補助券差引後)8万円
分娩・入院費52万円
通院の交通費2万円
夫婦の歯科・内科・薬局など9万円
医療費合計71万円
出産育児一時金(分娩費52万円が限度)-50万円
差引後21万円
-10万円11万円
控除額11万円
還付・減税の効果(税率20%+住民税10%)約3.3万円

ポイントは、出産費用だけでは足りなくても、家族全員の医療費を足すと超えるという点です。出産の年は妊婦健診と通院交通費が積み上がるため、ふだんの年より閾値を超えやすくなっています。

還付を取りこぼさない4つのコツ

1. 家族全員・1年分をまとめる

生計を一にしていれば合算できます。夫婦の歯科治療、子どもの小児科、同居の親の通院、ドラッグストアで買った風邪薬(治療目的のもの)まで、1〜12月の全部を1人に寄せて申告してください。出産の年はここで閾値を超えることが多いです。

2. 所得税率の高い人が申告する

同じ控除額でも、税率の高い人が申告するほうが戻りは大きくなります。共働きなら原則として収入の多い側が申告しましょう(ただし総所得金額等が200万円未満の人は閾値が「所得の5%」に下がるため、そちらが有利になるケースもあります)。

3. 交通費は記録を残す

電車・バス代は領収書が出ません。日付・行き先・金額をメモやアプリで残しておくだけで申告できます。妊婦健診は回数が多いので、積み上がると数万円になります。産後にまとめて思い出すのは無理なので、通院のたびに記録するのが現実的です。

4. 育休で収入が減った年に注意

育休に入ると給与収入が大きく下がります。出産手当金も育児休業給付金も非課税のため、妻の課税所得はかなり小さくなります。この場合、妻が申告しても引ける税金がそもそも少ないので、夫が申告したほうが有利になるのが一般的です。

申告の手順

  1. 領収書と記録を1年分集める(提出は不要ですが5年間の保存義務があります)
  2. 「医療費控除の明細書」を作成する。健康保険から届く医療費通知を使えば、記載を大幅に省略できます。マイナポータル連携なら自動取得も可能です
  3. 確定申告書を作成・提出する。国税庁の確定申告書等作成コーナーで画面に沿って入力すれば完成します
申告を忘れても5年間さかのぼれます。還付申告はその年の翌年1月1日から5年間可能です。「出産した年、バタバタしていて申告しなかった」という人は、今からでも間に合う可能性があります。

なお、セルフメディケーション税制(対象の市販薬が年12,000円超で適用)とはどちらか一方しか選べません。出産があった年は通常の医療費控除のほうが有利なケースがほとんどです。

よくある質問

Q. 出産育児一時金は差し引きますか?

A. 差し引きます。ただし出産手当金と育児休業給付金は差し引きません。国税庁は出産手当金について「医療費を補てんする性格のものではない」としています。

Q. 里帰り出産の交通費は対象ですか?

A. 実家に帰省するための交通費は対象外です。ただし里帰り先から病院に通う交通費は通院費として対象になります。

Q. 申告を忘れました。あとからできますか?

A. できます。還付申告は5年間さかのぼれます。

Q. 無痛分娩の追加費用は対象ですか?

A. 分娩に係る医療費として対象になるのが一般的です。個別の判断は所轄の税務署にご確認ください。

Q. 夫と妻、どちらで申告すべきですか?

A. 原則として所得税率の高い側(多くは収入の多い夫)が有利です。育休中で妻の課税所得が小さい年は特にそうなります。

まとめ

出産の年の医療費控除は、出産育児一時金50万円を引いた時点で諦めてしまう人が多い制度です。しかし実際には、

この3つを正しく適用すると、控除額が出るケースは少なくありません。還付額は数万円規模とはいえ、申告書を作る1時間の対価としては十分です。5年さかのぼれるので、過去の出産についても確認してみてください。

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